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第7話 踊れ踊れ、黒鷲と獅子(後半)

last update Terakhir Diperbarui: 2025-09-30 06:07:23

 そこに騒ぎに駆けつけたツェツィーリア様が、顔を真っ赤にして叫ぶ。

「な、なんですって!? ふざけたことを! 我がシューベルト家への、許されざる侮辱ですわ!」

「おや、ツェツィーリア様。実に、そう。じ・つ・に! タイミングの良いことで。わたくしめは、ただ市井の噂を申し上げたまでですが……何か、お気に障りましたか?」

「あなた、自分の立場が分かってるのかしら!」

「これはあくまで、独り言ではございますが。聞いたところによれば、ここ最近の身辺警備を担っている者たちは、侯爵家と所縁がある者も増えているとか? さすがは、栄えあるシューベルト家でございます」

「うっ……それは。そう、なの、かしら???」

 ツェツィーリア嬢も、知らぬことを切り出されて混乱している。真に受けて、「そうなのか」と互いに、顔を見合わせる貴族の子息令嬢たち。

 護衛の騎士達は怪訝そうにしてるけれど、確かに数名は、バツが悪そうに顔を伏せていた。

「おやおや、だとしたら。たかが娘一人の『うっかり』を止められぬほどの警備体制になったのは、なぜでございましょうか? 何かよほど深い理由がおありなのかもしれませんねえ」

 公然の場でここまで言われてしまえば、警備責任者は原因を究明せざるをえない。

 確かに、アカデミー内での警備に、弛みがあったのは事実。

 そして、指摘にあった通り、調べさえすれば、宰相家の息がかかった者など、周辺にいくらでも出てくるに違いない。

(いえ、でも。実際、シューベルト宰相家はなにもしてないですわよね? すべてはわたくしの、ドジのせいなのに!?)

 イヅルはわたくしを一瞥もせず、再び王子と騎士たちに向き直る。とどめを刺すように、この上なく挑発的に告げた。

「おや、ローラント殿。染み抜き液、急ぎお使いになりませんか? 我が家の特製インクは、“それ”でなければ、永久に消せませぬ故。――それとも、大鷲の威光を恐れて、獅子への忠義を示す事もままなりませんか?」

 警備の穴を突くというパフォーマンスは、成功の確信があったからこそ。今ならまだ、悲劇に至る前に修正できる。

 そう匂わせるイヅル。事実とはぜんぜん違うけど!

「……っ! 警備体制については、必ずや責任を以って調査いたします。この命に代えましても!」

「これ、ローラント! 真に受けるでない!」

「いえ、バージル殿下っ! アカデミー内とは言え、警備に穴があったのは事実です! 騎士として、万死に値する恥にございまするっ!」

 冷静になれ、とバージル殿下は窘める。

 だが、ローラント殿は責任感と、主君を危険に晒していたという恥に、真っ青にすら見える唇をわなわなと震わせていた。

 うん、わたくしも、真に受けないほうがいいと思うわよ!!?

「左様でございますか。もっとも。こうして白日の下に晒された“失態の染み”は、当分消えそうにございません。しかし、これこそが我らがシャーデフロイ故に」

 ――シャーデフロイ家はいつでも、あなた方にチェックメイト出来た。にも関わらず、汚れ役の名を背負ってでも、忠を果たし続けているのだ。

 このイヅルの宣告は、もはや呪いだ。

 バージル殿下は、ぐ、と奥歯を噛みしめ、屈辱に顔を歪めた。横顔は、熟れた柘榴みたいに赤い。

 黄金の獅子に汚点をつけられ、警護の不備を指摘され、政敵への注意喚起をされ、その上で、忌み嫌うシャーデフロイ家の情けを受けなければならない。

 プライドの高い彼にとって、これ以上の地獄があるだろうか。

(ひゃぁあっ、バージル殿下が見たこともない顔してる!? 歩く氷点下が、沸騰してるわ!)

 歩く氷点下、笑わずの王子、アイスマン。確かに、ボロボロに崩れてるけども! ここだけは当初の目的通りな気がするけども!

 場を完全掌握したことを確認すると、イヅルはようやく、わたくしへと振り返った。

「さあ、お嬢様。これ以上、警護の行き届かない危険な場所に、長居は無用でございます。参りましょう」

(え? なんで、わたくしも危険な場所にいる前提なの? 仕掛けた側なのに?)

 展開にまったく追いつけないわたくしの腕を、優雅に、しかし有無を言わせぬ力強さでエスコート。

 去り際、ぽかんとしているルチア嬢に、イヅルは聖人のような微笑みを向けた。

「ご安心を、ルチア様。純白のドレスが何一つ汚れず、本当に何よりでございました」

「え、あ、はい? ありがとうございます?」

「神職に在らせられるギャニミード男爵家が、今後もその尊い使命を果たせますよう、心よりお祈り申し上げます」

 暗に、あなたもこの政争と無関係ではないですよ、と匂わせるような発言。

 我に返ったようにハッとするバージル殿下。信じられない、という顔でルチア嬢とわたくしを見比べるツェツィーリア様。

 何もわかっていない顔で、ルチア嬢はにこやかに返す。

「はい♪ あなたにも祝福があらんことを」

「恐縮です」

 一礼すると、イヅルは眼鏡のズレをスッと直し、わたくしを連れ、悠々とこの場を後にする。

 ……背中に刺さるたくさんの視線が、ここ最近で一番痛すぎましたわ。

***

 屋敷へ戻る馬車の中。

 ガタガタという心地よい揺れが、ようやくわたくしを現実へと引き戻す。

「い、イヅル! いったい、ぜんたい、どういうことなの!? なぜあんなことを!」

「どう、とは? ビーチェお嬢様の、練習の成果がまるで発揮されない、素晴らしいアドリブのおかげで、計画は予定を遥かに超える大成功を収めましたが。何か問題でも?」

「問題だらけですわ! あれはアドリブじゃなくて、ただの事故です! 練習の成果が出てなくて悪かったわね!」

「おや、そうでしたか。しかし観客たちは、あれがお嬢様の仕組んだ計算ずくの高等戦術に見えたようですね」

「あ・な・たのせいでしょ!」

「真実がどうであれ、人は見たいものを見るそうですよ、この世界は」

 イヅルはこともなげに言い、窓の外に目をやる。流れる景色。

 だから、どうしてすぐ他人事みたいな口調なの! わたくしは、なんとか落ち着こうと深呼吸。ひっひっふー。

「よく考えるのよ、わたくし! 少なくとも嫌われる目標は、このうえなく達成されたような? いえ、それでも不敬罪なのでは!?」

「身を挺して、婚約者の警備不備を訴えた悲劇の令嬢を、罰することはできますまい。外聞が悪すぎますから」

「そ、そういうもの!?」

「婚約者を放置し、他のご令嬢とお茶会に興じていた王子。隙を突かれ、反撃も出来ず。現れた婚約者は、罰を覚悟で、愛する人の身の危険を証明した。……おや、実に感動的な美談ですね?」

「嘘八百じゃない! ぜんぶ、ぜんぶ嘘じゃない!?」

「ですが、バージル殿下が、今まで貴女様をないがしろにしていたのは事実でございます。あとは、情報戦の領分ですよ」

 実際問題として調査が進めば、宰相派の関係者が、バージル殿下周辺の警備に食い込んでいたことは明らかになる。

 だからこそ、問題の矛先は自然とそちらへ逸れる。そう、イヅルは説明した。

「スパイも手勢も平時から、互いに放っているもの。ですが、こうして指摘されてみると、全てが怪しく見えるものでございます。暫くは、宰相派も大人しくせざるを得ないでしょう」

「それは冤罪よっ! 詐欺師の手口じゃないの!」

「しかし。宰相派が手を広げようとしていたのは、あくまで事実なのです。おわかりですか? 王家として、どのシナリオを採用するのが望ましいと思われますか?」

 真実かどうかは重要ではない。誰にとって、どの程度、都合がよくて……エンターテイメントとして面白いかが重要なのだ。

 イヅルは深い深い愉悦を湛えた笑みで、わたくしを見た。

「ご覧ください、お嬢様。最高のショーが、幕を開けましたよ。王家も宰相も、今頃は頭を抱えていることでしょう。貴女という予測も制御も不能な、実に素晴らしい|主演女優《プリマドンナ》の存在にね」

 わたくしは納得いかぬまま、シートに深くもたれかかる。

「の、望んでない方向なのにぃぃいい……っ!」

 思わず脱力。

 知らないところで、とんでもなく巨大で複雑な、なにより面倒くさい歯車が、ギシリ、と錆びた音を立てて回り始めていた。

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