LOGINそこに騒ぎに駆けつけたツェツィーリア様が、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「な、なんですって!? ふざけたことを! 我がシューベルト家への、許されざる侮辱ですわ!」
「おや、ツェツィーリア様。実に、そう。じ・つ・に! タイミングの良いことで。わたくしめは、ただ市井の噂を申し上げたまでですが……何か、お気に障りましたか?」 「あなた、自分の立場が分かってるのかしら!」 「これはあくまで、独り言ではございますが。聞いたところによれば、ここ最近の身辺警備を担っている者たちは、侯爵家と所縁がある者も増えているとか? さすがは、栄えあるシューベルト家でございます」 「うっ……それは。そう、なの、かしら???」ツェツィーリア嬢も、知らぬことを切り出されて混乱している。真に受けて、「そうなのか」と互いに、顔を見合わせる貴族の子息令嬢たち。
護衛の騎士達は怪訝そうにしてるけれど、確かに数名は、バツが悪そうに顔を伏せていた。「おやおや、だとしたら。たかが娘一人の『うっかり』を止められぬほどの警備体制になったのは、なぜでございましょうか? 何かよほど深い理由がおありなのかもしれませんねえ」
公然の場でここまで言われてしまえば、警備責任者は原因を究明せざるをえない。
確かに、アカデミー内での警備に、弛みがあったのは事実。 そして、指摘にあった通り、調べさえすれば、宰相家の息がかかった者など、周辺にいくらでも出てくるに違いない。(いえ、でも。実際、シューベルト宰相家はなにもしてないですわよね? すべてはわたくしの、ドジのせいなのに!?)
イヅルはわたくしを一瞥もせず、再び王子と騎士たちに向き直る。とどめを刺すように、この上なく挑発的に告げた。
「おや、ローラント殿。染み抜き液、急ぎお使いになりませんか? 我が家の特製インクは、“それ”でなければ、永久に消せませぬ故。――それとも、大鷲の威光を恐れて、獅子への忠義を示す事もままなりませんか?」
警備の穴を突くというパフォーマンスは、成功の確信があったからこそ。今ならまだ、悲劇に至る前に修正できる。
そう匂わせるイヅル。事実とはぜんぜん違うけど!「……っ! 警備体制については、必ずや責任を以って調査いたします。この命に代えましても!」
「これ、ローラント! 真に受けるでない!」 「いえ、バージル殿下っ! アカデミー内とは言え、警備に穴があったのは事実です! 騎士として、万死に値する恥にございまするっ!」冷静になれ、とバージル殿下は窘める。
だが、ローラント殿は責任感と、主君を危険に晒していたという恥に、真っ青にすら見える唇をわなわなと震わせていた。 うん、わたくしも、真に受けないほうがいいと思うわよ!!?「左様でございますか。もっとも。こうして白日の下に晒された“失態の染み”は、当分消えそうにございません。しかし、これこそが我らがシャーデフロイ故に」
――シャーデフロイ家はいつでも、あなた方にチェックメイト出来た。にも関わらず、汚れ役の名を背負ってでも、忠を果たし続けているのだ。
このイヅルの宣告は、もはや呪いだ。
バージル殿下は、ぐ、と奥歯を噛みしめ、屈辱に顔を歪めた。横顔は、熟れた柘榴みたいに赤い。黄金の獅子に汚点をつけられ、警護の不備を指摘され、政敵への注意喚起をされ、その上で、忌み嫌うシャーデフロイ家の情けを受けなければならない。
プライドの高い彼にとって、これ以上の地獄があるだろうか。(ひゃぁあっ、バージル殿下が見たこともない顔してる!? 歩く氷点下が、沸騰してるわ!)
歩く氷点下、笑わずの王子、アイスマン。確かに、ボロボロに崩れてるけども! ここだけは当初の目的通りな気がするけども!
場を完全掌握したことを確認すると、イヅルはようやく、わたくしへと振り返った。「さあ、お嬢様。これ以上、警護の行き届かない危険な場所に、長居は無用でございます。参りましょう」
(え? なんで、わたくしも危険な場所にいる前提なの? 仕掛けた側なのに?)展開にまったく追いつけないわたくしの腕を、優雅に、しかし有無を言わせぬ力強さでエスコート。
去り際、ぽかんとしているルチア嬢に、イヅルは聖人のような微笑みを向けた。「ご安心を、ルチア様。純白のドレスが何一つ汚れず、本当に何よりでございました」
「え、あ、はい? ありがとうございます?」 「神職に在らせられるギャニミード男爵家が、今後もその尊い使命を果たせますよう、心よりお祈り申し上げます」暗に、あなたもこの政争と無関係ではないですよ、と匂わせるような発言。
我に返ったようにハッとするバージル殿下。信じられない、という顔でルチア嬢とわたくしを見比べるツェツィーリア様。 何もわかっていない顔で、ルチア嬢はにこやかに返す。「はい♪ あなたにも祝福があらんことを」
「恐縮です」一礼すると、イヅルは眼鏡のズレをスッと直し、わたくしを連れ、悠々とこの場を後にする。
……背中に刺さるたくさんの視線が、ここ最近で一番痛すぎましたわ。 *** 屋敷へ戻る馬車の中。 ガタガタという心地よい揺れが、ようやくわたくしを現実へと引き戻す。「い、イヅル! いったい、ぜんたい、どういうことなの!? なぜあんなことを!」
「どう、とは? ビーチェお嬢様の、練習の成果がまるで発揮されない、素晴らしいアドリブのおかげで、計画は予定を遥かに超える大成功を収めましたが。何か問題でも?」 「問題だらけですわ! あれはアドリブじゃなくて、ただの事故です! 練習の成果が出てなくて悪かったわね!」 「おや、そうでしたか。しかし観客たちは、あれがお嬢様の仕組んだ計算ずくの高等戦術に見えたようですね」 「あ・な・たのせいでしょ!」 「真実がどうであれ、人は見たいものを見るそうですよ、この世界は」イヅルはこともなげに言い、窓の外に目をやる。流れる景色。
だから、どうしてすぐ他人事みたいな口調なの! わたくしは、なんとか落ち着こうと深呼吸。ひっひっふー。「よく考えるのよ、わたくし! 少なくとも嫌われる目標は、このうえなく達成されたような? いえ、それでも不敬罪なのでは!?」
「身を挺して、婚約者の警備不備を訴えた悲劇の令嬢を、罰することはできますまい。外聞が悪すぎますから」 「そ、そういうもの!?」 「婚約者を放置し、他のご令嬢とお茶会に興じていた王子。隙を突かれ、反撃も出来ず。現れた婚約者は、罰を覚悟で、愛する人の身の危険を証明した。……おや、実に感動的な美談ですね?」 「嘘八百じゃない! ぜんぶ、ぜんぶ嘘じゃない!?」 「ですが、バージル殿下が、今まで貴女様をないがしろにしていたのは事実でございます。あとは、情報戦の領分ですよ」実際問題として調査が進めば、宰相派の関係者が、バージル殿下周辺の警備に食い込んでいたことは明らかになる。
だからこそ、問題の矛先は自然とそちらへ逸れる。そう、イヅルは説明した。「スパイも手勢も平時から、互いに放っているもの。ですが、こうして指摘されてみると、全てが怪しく見えるものでございます。暫くは、宰相派も大人しくせざるを得ないでしょう」
「それは冤罪よっ! 詐欺師の手口じゃないの!」 「しかし。宰相派が手を広げようとしていたのは、あくまで事実なのです。おわかりですか? 王家として、どのシナリオを採用するのが望ましいと思われますか?」真実かどうかは重要ではない。誰にとって、どの程度、都合がよくて……エンターテイメントとして面白いかが重要なのだ。
イヅルは深い深い愉悦を湛えた笑みで、わたくしを見た。「ご覧ください、お嬢様。最高のショーが、幕を開けましたよ。王家も宰相も、今頃は頭を抱えていることでしょう。貴女という予測も制御も不能な、実に素晴らしい|主演女優《プリマドンナ》の存在にね」
わたくしは納得いかぬまま、シートに深くもたれかかる。
「の、望んでない方向なのにぃぃいい……っ!」
思わず脱力。
知らないところで、とんでもなく巨大で複雑な、なにより面倒くさい歯車が、ギシリ、と錆びた音を立てて回り始めていた。――時は、少し遡る。 華やかな夜会の裏側。 賑わいが、最高潮に達しようとしていた、その裏側で。「……なんだと? ヒュプシュが逃げ出した?」 バージルは、耳打ちされた報告に、露骨に顔をしかめた。 報告者は、腹心の騎士ローラント。「はい。どうやら、あてがわれた部屋を抜け出したようでして」「やれやれ。あの男も、大人しく謹慎していれば良いものを」 バージルは、やれやれと呆れる。だが、同情もした。 不自由はさせていないとはいえ、軟禁状態で夜会の音楽を聞かされるのは、あの気位の高い男には耐え難かったのだろう、と。 それでも、嫌疑の晴れていないヒュプシュ卿が、逃亡劇を繰り広げているとなれば、無視するわけにはいかない。「まったく。世話の焼ける男だ。……行こうか、ローラント」 ――どうせ、今宵のエスコートすべきだったはずの『|燃える薔薇《フォイアローゼ》』は、別の男たちに向けて咲いているのだ。 バージルは、どうにも切ない気分になりつつ、人目を避けて会場を出た。「捜索隊を出すぞ。大ごとにせず、速やかに連れ戻すのだ」 自らが統率する、警護騎士団を招集。 しかし、人気のない廊下を進むにつれ、バージルは奇妙な違和感に襲われた。 集まった護衛騎士たちの様子がおかしい。 呼吸は乱れ、瞳は昏い。まるで、見えぬ糸で操られるマリオネットのように、力なく歩を進めてくる。「そなたら、どうしたというのだ?」 不審に思い、声をかけた途端。 騎士たちが、一斉に抜剣し、バージルへと襲い掛かってきた!「なっ、乱心したかッ!」 とっさに剣を抜き、応戦するバージル。しかし、多勢に無勢。「殿下。どうか抵抗は、なさらないでいただきたい」 さらに陰から、数名の護衛騎士たちが現れる。皆、剣を抜き、切っ先を向けて来る。「ローラント、これはどういうことだ!? 彼らは…&hellip
「確かに、私は|剣聖《マギステル》に至らぬ身ではございますが……この程度で籠城可能と思われては、悲しく思います」「わかっているとも。……お前の実力がどれほどか、は」「そうでしたか。まるで、聞き分けのない迷子を、捜しに来た気分でしたよ。なぜよりによって、このような袋小路に?」 だが、バージル殿下は問いには答えなかった。諦念の混じるため息を吐きながら返す。そこに恐怖心はなかった。「はあ。そなたこそ、“なぜ”だ、ローラント。そなたは、この私の剣ではなかったのか?」「ええ、その通りです。私は、殿下の剣であり、盾です。だからこそ……殿下を“あるべき場所”へとお導きせねばならない」「そなたが言うところの、王とやらの元に?」「ええ、そうです。我が主君、ハンノキの王の御許へと」 霧がかる、暗き森。主の御許。 綺麗な花も咲いて、黄金の衣装もございます。 歌や踊りを、平和な世界で楽しみましょう。 「さあ、敬愛する殿下よ、聡明なる殿下よ、私と一緒においでください。素晴らしい遊びをいたしましょう」 嫌がるならば、力づくでもお連れしますよ。 敬愛する殿下よ、聡明なる殿下よ。 口ずさむように、ローラント殿は一歩ずつ迫る。「嘘……嘘よ、ローラント殿! 貴方ほどの騎士が、こんな……こんな酷いことをするなんて!」 わたくしは、思わず語り掛けた。未だに、この現実が信じられなかったから。 すると、ローラント殿は目を細める。「酷い、ですか? ふぅ、貴女様にはそう見えますか。……ああ、さては目的は時間稼ぎですね? ふふ、まあ良いでしょう」 奇妙な納得の仕方をする、ローラント殿。なにかがすれ違っている。「結局、最後まで立ちはだかるのは、貴女様でしたね」「立ちはだかる? …&hel
血まみれのローラント殿が、こちらへ歩み寄ってくる。 逃げなければ。そう思うのに、足がすくむ。「さあ、参りましょう。その献身を、我が王が忘れることはないはずです」 優しい微笑み。彼の手が、わたくしに触れようとした、その刹那!「――させんッ!」 横合いから、雷鳴のような怒号と共に、青白い閃光が迸った。鏡の迷宮に、裂帛の気合いが響き渡る。 ガギィィィンッ! だが、ローラント殿は、その奇襲を弾く。 ――仕掛けたのは、息切らす、バージル殿下。「殿下っ!?」「遅くなって、すまない! 無事か、ベアトリーチェ!」 黄金の髪を振り乱し、ドレスシャツを汗と血で汚した――我が婚約者! かつて感じた冷淡さは微塵もない。ただ真っ直ぐに、わたくしを案じる。「おや、殿下。もうお戻りになるとは、ああ、やはり殿下は、本当に正義感のある、素晴らしいお方だ」「皮肉か、貴様ッ」「いいえ、本心ですよ。ベアトリーチェ様を、苦しませずに済みました」 ローラント殿は、悪びれる様子もなく称賛する。宿る、一点の曇りもない、主君への敬愛。 だからこそ、不気味だった。「下がりたまえ、バージル殿下。私が、せっかく逃がしてやったと言うのに、戻って来るとはどういう了見だね?」 背後から、よろよろと立ち上がったヒュプシュ卿が悪態をつく。 彼は、血まみれの剣を構え、ローラント殿を挟み撃ちにする形をとった。「ヒュプシュ! 生きていたか!」「あいにく、死にぞこなったところだが。ここから先は保証せんよ。さっさと、ベアトリーチェ嬢を連れて逃げるんだな」「ならば、加勢しろ! 可能ならば、ここでローラントを抑えるっ!」「チッ、間抜け王子。こんな時でも、頭の堅さは変わらずか」 バージル殿下とヒュプシュ卿。かつての敵対者同士が、今、並び立って剣を構える。 しかし、ローラント殿は、その二人の剣圧を前にしても、余裕を崩さない。「国を憂う若きお二人が、手を取り合う。感無量です。ですが
かつ、かつ、かつ。 ヒールの音が反響する。 わたくしが駆け込んだ先は、王宮の奥深くにある『鏡の回廊』。王宮の裏口や、重要区画へと通じる動脈。(バージル殿下が逃げるとしたら、あるいは連れ去られるとしたら、このルートを使うはずよ) そう、踏んだのだけれど。 ふと横を見れば、そこには無数の“わたくし”がいた。 壁一面を覆う鏡が作り出す、終わりのない合わせ鏡の迷宮。 わたくしが一歩踏み出せば、鏡の中の何百人ものわたくしも、一斉に動く。(増殖する、虚像のわたくし) なぜか、嫌悪感が走る。 深紅と緑の斑入り大理石の柱。その柱頭から見下ろす、勝利の女神。頭上のフレスコ画から見下ろす、歴代の王たちの影。 あらゆる絢爛さが、鏡の中で歪み、増殖し、現実の境界を曖昧にしていく。(怖い。まるで、過去の亡霊たちが、姿を借りてこちらを覗いているみたい) 普段は、煌びやかなはずのこの場所が、今は、ただひたすらに不気味。 わたくしは、この震える体を抱きしめながら、前に進んだの。 そして、そこで目にしたのは――。「ぐあっ!?」「くそっ、こいつら、強すぎるっ!」 殿下の護衛騎士たちが、次々に薙ぎ倒されていく光景だった。 立っていたのは、ヒュプシュ卿と、あの鉄拳カールと呼ばれていた巨躯の騎士。 (ヒュプシュ卿!? それに、あの騎士まで!?) わたくしの思考は、瞬時に結論を出した。「この二人こそが、この事態を招いた裏切り者なのだわ! ヒュプシュ卿が、温室で捕らえられたのは、誤解ではなかったのね!」 宰相家の嫡男と、騎士団きっての武闘派。そんな二人が、殿下の護衛騎士たちを攻撃している。もはや、疑いようのない真実に見えた。 わたくしは、とっさに柱の陰に身を隠す。だけど、戦いを終え、騎士たちが動かなくなったのを確認すると、二人はゆっくりと近づいてくる。「――そこにいるのは、誰だ?」「おい、若。…&he
「暫く見ぬ前に、王都も随分と賑やかなことになっているじゃないか」 黄金の翼と獅子の身体を持つ、幻獣――グリフィン! そして、背に悠然と跨るのは、白銀の甲冑に身を包んだ、一人の女性。 年齢を感じさせない、彫刻のように美しい顔立ち。燃えるような赤髪。どんな猛獣よりも鋭利で、覇気に満ちた瞳。「……まったく、どいつもこいつも、だらしないことだ」 女が片手で軽々と、巨大な|槍斧《ハルバード》を振るえば――怪物たちが、木の葉のように吹き飛ぶ。 その光景を見た途端、三人の重鎮たちは、安堵ではなく。揃いも揃って顔面蒼白になった。「ば、馬鹿な……! まさか、あの御方が!?」「うげぇっ!? マティルデ殿だと!? なぜ、領地からここへ!?」「ひぃぃぃっ! 妻が! 妻が来てしまったぁぁぁっ!」 国王は床に転がり落ちそうになり、宰相は震え上がり、夫であるはずのウェルギリ伯爵が、頭を抱えて悲鳴を上げた!「え……?」「うそ……あの紋章は……?」 あまりの暴れっぷりに、必死に戦っていた生徒たちも、騎士たちも、怪物たちすら動きが止まる。 掲げられているのは、シャーデフロイ家の『翼ある蛇』。 さらに隣には、かつての敵、聖王国に連なる名家『赤き猟犬』の紋章が、誇らしげに刻まれていた。「ふははははっ、随分と散らかしてくれたものだな。……獣どもめッ!」 そう、この雄たけびをあげながら暴れまわる彼女こそが、シャーデフロイ伯爵夫人。 聖王国の宝と謳われ、シュタウフェン王国軍を幾度も退けた、伝説の聖騎士。マティルデ・ファン・シャーデフロイ、その人だったのだ! そこに空気も読まず、能天気な声を掛けられるのはただ一人、ルチアだけ。「ああっ、お師匠さまだ♪ わーい、ルチアはここです~!」 ふっと、マティルデは、表情を緩めて一瞥。すかさず、手を振ると合
そんな渦中で、ツェツィーリア様はある違和感に気付いた。「待って! この状況……おかしいわ! なぜ、バージル殿下の姿が見えないの!?」「言われてみれば……?」 見渡せば、陛下や、お父様の姿も、遥か上段のバルコニーに見える。でも、肝心の王太子殿下の姿が、どこにもない。ローラント殿の姿も、だ。「あの責任感の塊のようなお二人ならば、この状況を解決しようとするはずじゃなくて? ――まさか!?」 ツェツィーリア様の顔色が、さっと変わる。何かを確信したように、わたくしの腕を掴んだ。「ベアトリーチェ! あんた、行きなさい!」「えっ? どこへ?」「とにかく殿下の元へよ! これは……きっと陽動だわ! 敵の本当の狙いは、この騒ぎに乗じて、手薄になった殿下を暗殺することに違いないわ!」 そう言われても、殿下がどこにいるのかすら、わたくしにはわからないわ。「きっと、無茶をしてるわよ! ここは、あたしたちがなんとかする!」「でも……」「……お願い。きっと、あんたが一番、上手くやれるはずだわ」 ぐっとこらえるように、切なそうな眼差しでそう言われた。本当は、ツェツィーリア様自身が助けに行きたい、そんな気持ちが痛いほど伝わってくる。 わたくしが、助けられるかなんて、そんな自信はまったくないけれど。(まったく、殿下も罪な男ですわね。ツェツィーリア様という幼馴染を、もっと大事にすべきですわ) この提案に込められたものは、信頼と友情。応えられなかったら、女が廃るわ。「もし負けたら、貴方様の無様な姿を、最前列で笑ってあげますわよ」「なによ! そっちこそ覚悟したらいいわ!」 いつかの台詞を引用して、わたくしたちは不敵に笑みを交わし合うと、互いに別々の方向へと動き出す。 背後で、乙女たちの詠唱が、高らかに響き渡った。「さあ、あんたた